ウンターエンガディンへ  
 サヴォーニンからPTTバスに乗り、サンモリッツを目指す。朝夕1日2本だけクールからユリア峠を越えてサンモリッツへ行く直通バスが走っている。快調にバスは走る。峠道にさしかかり、バスはくねくねとまがりながら、時折、「プ〜パ〜」とラッパのようなクラクションを鳴らしてユリア峠を越えた。今までいくつかの峠をバスで越えてきたが、このユリア峠には、何もない。食べるところも、巨大な石造もない。そのまま下り道を下っていくと、眼下にきれいな湖が見えてきた。シルバプラナ湖である。この湖を見て、2年ぶりに再びサンモリッツへ戻ってこれたことを実感し、どことなくうれしい気持ちになった。
 バスがサンモリッツ駅前に到着した。とりあえず、駅のロッカーに手荷物を預けて、改めてポントレジーナ行きのPTTバスにのり、サンモリッツドルフの学校前広場へ向かった。ここにハンセルマンという有名な洋菓子やさんがある。前回なにも食べることができず、今回はぜひ食べたいと思っていた。店内に入り、コーヒーとサンドイッチを頼む。お目当てのケーキも注文すると、店の方でここで食べることを言うと、お皿に入れてくれるので、持ってきて食べればいいとのことだった。今回食べたのはチョコレ−トケーキ。5.50SFなので決して安くはないが、値段のことだけあっておいしかった。
 おなかもふくれて満足し、サンモリッツ駅へ戻り、ライゼゲペックで送っておいたスーツケースとロッカーに預けた手荷物を持って、今日の宿泊地、ツェルネッツへ移動する。時間にして1時間ほどである。
 ツェルネッツ駅から100mほど行ったメインストリートに、今日のホテル、Crusch Alba(★★★)がある。ホテルの中は、漆喰を削って模様を描くスグラフィート技法を使ってさまざまな絵が描かれており、昔のそりやスキー、乳母車、狩りの大会でとったと思われるメダルと、多くの剥製があった。
 部屋は最上階で、部屋の大きさは広く快適である。白い壁に木の扉、丁度品も美しく統一されている。ただ、天井がやや低い感じがした。
 この部屋と向かいの部屋は他の部屋から一つドアで隔離されており、この部屋の間には、流し台や電熱器があり、2人が座れるだけのテーブルもあった。グループで宿泊するのにいいかもしれない。
 このホテルは、オーナー自身が野生のハトやシカなどの肉を使った料理が得意とのことで、試しに、夕食はラムと野生のシカ肉を食べてみた。特にシカ肉は、臭みもなくとてもおいしかった。レストランは繁盛しているようで、オーナーの奥さんがいそがしく働いていた。その傍らで、2人の子供たちが遊んでいた。この子供たちもいずれはこのホテルを継ぐのだろうか。
 今日はウンターエンガディンの村々を訪れることにする。まず、この路線の終点シュクオールへいく。ここは温泉町で有名だ。駅を降りて、温泉センターがあるようなので、そこまで行ってみる。徒歩で約20分程度かかった。建物は現代風で、中は温水プールのようになっていて、水着を着たお年寄りが大勢くつろいでいた。私たちも入ってみたかったが、ヨーロッパの温泉は水着を着用しなければならず、あいにく持っていなかったので入らなかった。
 また、シュクオールには、天然鉱泉があり、町の泉の中でも普通の涌き水と鉱泉が2つでている場所が何ヶ所かある。私たちはそのうちの一ヶ所を見つけた。2つ水道口があり、水がたまっているところを見ると、ひとつは赤っぽく、明らかに鉄分が含まれているような感じだった。試しに飲んでみると、鉄をなめたときのような味がして、そうたくさん飲めるものではなかった。だが、体にはよさそうな感じがした。もちろん、普通の涌き水は飲みやすいおいしい水である。こんないい水がただで飲めるなんて、ほんとにうらやましい限りだ。
 シュクオールのメインストリートは、さっきの温泉センターにも隣接している。センターと同じように、当たらし建物が多く、観光地化されていて、ショッピングができるところがたくさんあった。しかし、少し通りを外れると、昔ながらの路地があり、もともとあったこのあたりの雰囲気がそのまま残されていた。家も、壁もすべて昔のままである。
 私個人的には、やはり、昔のままがいいのだが、こんなスイスの奥にも観光地化の波がきているのかと思うと、少し寂しい気もした。
 シュクオールを離れ、グアルダを目指す。途中、城が見えてくる。タラスプ城というらしい。ガイドブックによれば、現在個人所有だそうだが、見学もできるそうだ。今回は、時間の都合で行かなかったが、シュクオールからバスで行けるようだ。いつもながら、見るところが次から次へと出てきて、何回訪れても足りない気がする。
 シュクオールから、グァルダ駅につく。グアルダとは、直訳すると「見る」ということになる。「見る」だけの価値のあるところということだろうか。ガイドブックでも、立ち寄るべきだとかかれている。
 グアルダの村へは、ここよりも海抜が約200mほど上ったところにあるのだ。本来ならば、列車に連動して出発する一日6本ほどのとても小さなPTTバスで行くのがいいのだが、たまたまついた時間はバスがない時間で、後1時間待たなければならない。仕方なく、ハイキングを兼ねて、坂道を上ることにした。
 急な坂を息を切らせながら上る。少しずつ海抜が高くなるにつれて、景色もよくなっていく。しかし、かなり大変な道には違いない。上り始めて40分、ようやくグアルダの村へついた。
 グァルダはいまも昔の雰囲気を残すところだ。まあ、駅からこれだけの距離があるのだから、納得もいく。村には自動車はほとんど走っていない。代わりという訳ではないが、マウンテンバイクに乗った家族やグループがレストランで休憩している姿をよく見かけた。スイスは、ハイキング道が整備されていることは有名だが、同時にサイクリング道もよく整備されている。近隣諸国からも自分の自転車を列車で運び、スイスでサイクリングをしている人がたくさんいると聞いている。
 ガイドブックに、亜麻を使っていろいろな手作り品を作っている店があるという。小さな村の中をうろうろして、やっと見つけた。店というよりも民家の中に商品が置いてあるという感じだ。クッションやポーチなどいろいろな品物がある。これらを作っているおばあさんが、ドイツ語で商品の説明をしてくれた。どうも、英語は話せないらしい。だが、不思議なもので、相手の身振り手振りや、英語に似た単語の音で大体の意味がわかった。これぞまさしく人と人とのコミュニケーションである。結局、ここで、ハンドメイドのカウベルを購入した。
泉 古い町の中
マーモットの飾りがついた
鉱水が出ている泉
裏通りは昔の雰囲気がそのまま
シュクオールの駅 タラスプ城
シュクオールの駅 タラスプ城
グアルダの駅舎 グアルダの景色
グアルダの小さな駅舎 急な坂道は大変だが見晴らしはいい
壁の絵 火災を知らせるラッパ
美しい壁の絵 ラッパは火災を知らせるため
アルデッツからミュスタイア  
 グアルダの村から隣村のアルデッツまでハイキングすることにした。1時間30分ほどあれば歩けるようだ。自動車一台が通れる程度のメインストリートを歩く。天気はいいし、花は多いし、とても気持ちのいいハイキングだ。あたりを見渡すと、牧草を刈り入れている風景が目に入ってくる。風に乗って、草のにおいがただよってくる。自然に気分がリフレッシュされていく感じがした。
 遠くにボスチャ村が見える。ここまで行くとグアルダ村の中心からアルデッツまでの約1/3程度を歩いたことになる。この村は、グアルダよりもさらに小さく、あっという間に、通りすぎてしまう。見たところ、コーヒー一杯だけでも飲める、レストランのようなものはなさそうである。
 村を過ぎると、坂を下ることになる。アルデッツの村も見えている。だが、村は見えていても、なかなか着かない。見晴らしがよすぎて遠近感が狂うからだろうか。
 ボスチャ村を出て、約1時間後、ようやくアルデッツ村に到着した。さっそく、目的の家を探す。マイストラ通り100番地である。べつに、友人・知人が住んでいるわけではない。この番地の家には、アダムとイブがフレスコ画で描かれているのである。探し始めて10分ぐらいだろうか、それらしき家が目の中に飛び込んできた。まさしく、アダムとイブが描かれている。家全体が、キャンバスになっていて、本当にすばらしい。また、描かれたのも古いようで壁面の下の方の絵ははがれていた。しかし、そのはがれ加減が、いっそう絵の古さをかもしだしている。エンガディンへ行かれたら、アルデッツのアダムとイブのフレスコ画はぜひ、見ていただきたい。
 翌日は、世界遺産のミュスタイア寺院へ向かう。夕方まで荷物をホテルに預かってもらい、ツェルネッツの駅前まで歩く。ミュスタイアへは、PTTバスで行くのだが、その出発地点が、このツェルネッツ駅前なのである。バスの本数は、1時間に1本。ミュスタイアまでは1時間ほどである。このバスは鉄道と連絡していて、スムーズな乗換えが可能だ。ただし、乗り換える人が多いと、バスに乗れない場合もあるかもしれない。私たちは、鉄道が来る前から待っていたため、座席に座ることができたが、あとから列車で来たお客さんは、立ったままの乗車となった。このとき、イギリスからの団体客がこのバスの予約をしていたようで、バスの運転手に英語で説明をしていた。だが、運転手は、ドイツ語しかわからないらしく、困った顔をしていると、周りにいたお客さん数人が、一斉に通訳をはじめた。この光景には、私も驚いた。さすがスイス。日本では、考えられない光景だ。お客さんのおかげで、無事に事無きを得たようだ。
 バスは国立公園の中を通っていく。スイスの国立公園は、ここしかない。私もはじめ聞いたときはびっくりした。国全体が国立公園のようなこの国に、一つしか国立公園がないとは。しかし、ある意味、国立公園に指定しなくてもある程度自然が守られているということが言えるのかもしれない。
 国立公園を抜けると、谷が広がる。ミュスタイアはもうすぐだ。世界遺産のミュスタイア寺院へは、バスの終点まで行けばよい。私たちは、ひとつ前の村の中心のバス停で降りて、村の中をぶらぶら歩きながら、寺院を目指したが、寺院までの距離は500mほどなので、ここで降りてもさほど遠くない。
 寺院の向かいは大きな駐車場。観光バスが何台か止まっている。ツアーのバスのようだ。寺院自体はそれほど大きくない。一部は修復工事をしているようだ。隣に博物館があるが、時間が9時から11時と15時から17時までしか開館しないようで、昼間に私たちが着いたときには、すでに閉館していた。さっそく、寺院の中へ入ってみる。中には、フレスコ画の絵が壁面全体をおおっている。どこからともなく、祈りの声が聞こえてきた。しばらくして、声が賛美歌へと変わる。しばし、その歌を聞きながら、椅子に腰をかけ壁の絵を見る。今までにもヨーロッパのいろいろな教会や寺院を訪れた。私はあんまり教会や寺院に興味はないが、ここは世界遺産に指定されるだけあって、趣が全然違う。
 約1時間弱、この寺院で過ごし、村へ戻る。途中、木彫りの店があり、大小さまざまな木彫りが並んでいた。ただ、ここもお昼休みで、店の中へ入って品定めをすることができなかった。
 さっき降りたバス停まで戻ってきた。次のバスまで約1時間あるので、バス停近くのパン屋さんでパンを買い、ついでにソフトクリームも買った。さすがにスイスのソフトクリーム。クリームの味が全然違う。色は黄色で、バニラビーンズまで入っている。値段は、2.20CHF。
 バス停をふとみると、別のバスの時刻表がある。ここから、イタリアのメラーノへ行くバスのようだ。本数は2,3本程度のようだが、イタリア方面へ旅を続けたい方には、こういうルートもお勧めだ。メラーノまで行けば、イタリア国鉄が走っており、イタリアはもちろん北に上がればオーストリアのチロル地方へも行くことができる。
 私たちは、ここからバスで少し戻り、午後から国立公園をハイキングすることにした。
ボスチャ村 アルデッツ村
牧草地の向こうに見えるのは、ボスチャの村 こっちは、アルデッツの村
エデンの園の絵 アダムとイブの絵
家の壁全体がエデンの園 アダムとイブの絵
寺院内のフレスコ画(正面) 寺院内のフレスコ画(側面)
寺院内のフレスコ画
木彫りの人形 ミュスタイア村バス停前のパン屋
こんな木彫りの人形が この茶色い家がバス停前のパン屋さん
国立公園を歩く  
 初めての場所をハイキングするということで、迷子にならないように、ツェルネッツの駅で、国立公園のハイキングマップ(ワンダーカルテ)を事前に購入し、ルートを確認した。地図で見る限り、国立公園を歩くルートは、20ルートあるのだが、その大半のスタート地点は、ツェルネッツとミュスタイアをつなぐバスルートの間にある。私たちは、その中で、比較的楽そうな"Il Fuorn"から"Alp La Schera"を経由し、"Punt la Drossa"へ降りるルートを選んだ。おおよそ4時間ほどの行程だ。
 国立公園は、自然を本当の意味で自然のまま残しているので、ハイキングルートから逸脱したりすることはできないし、もちろん、リフトやケーブルカーなんてものもあるはずがない。つまり、一生懸命山登りをして、下るわけである。
 スタート地点で奇妙なものを見つけた。松の葉が山盛りになっている。私は、てっきり管理をしている人が、松の枯葉を集めたのだろうと思った。ちょうどやきいもでもするのかという感じの雰囲気のようだ。しかし、その近くに看板があるのを発見した。もちろん説明を読みたいが、英語の読解力がない私には、とうてい無理な話。だが、その横に書いてある絵を見てわかった。この枯葉の山の正体は、アリ塚だった。ここに生息するアリが、せっせと巣作りをして、ここまで大きな山にしたということのようだ。したがって、枯葉の山の中はすべてアリの巣ということになる。このあとも、ハイキングをしながら、この巣をたくさん見かけた。
 さて、日ごろ歩いていないため、結構山登りはきついものがある。だが、騒音のない鳥や風の音だけが聞こえる道を歩くと、気持ちはリラックスしていく。すれ違う家族連れや夫婦、友達といっしょにハイキングをしている人たちの顔も、どことなくさわやかだ。
 スタートから約2時間を過ぎ、ようやく"Alp La Schera"についた。ここには天然の水道と天然の水洗トイレがある。天然といっても、水道は蛇口をひねれば出てくるし、トイレも、街中のような立派なものではないが、とりあえず水が流れるようになっている。日本では、考えられないほどの設備だ。
 この、"Alp La Schera"の周りには、頭の部分が黄色いくいが立っている。これは、これ以上外へは出ないでくださいというもので、あくまでも、自然保護の観点から、そうしているようだ。もちろん、警備の人がいるわけでもないので、くいの外に出ても、怒られることはないが、休憩している人みんな、ちゃんとマナーを守っている。
 休憩しながら、人間ウォッチングをしていると、双眼鏡をとりだして、何やらのぞいている。景色を見ているのかと思ったら、その先には野生のマーモットがいた。さすが、野生のマーモット。機敏な動きでこちらを警戒している。以前、サースフェーで見た餌付けマーモットとは大違いだ。
 ”Alp La Schera”からは、素直に下ればいいのだが、どうしてもマーモット以外の野生動物が見たかったので、もう少し登ってみることにした。できれば、この山のてっぺん、”Munt la Schera"までいければいいのだが、時間的にも難しそうだ。とりあえず、行けるところまで行ってみることにした。
 時間は午後3時を過ぎていたので、降りてくる人はいても、登っていく人は見かけない。しかし、少しの可能性を信じて、野生動物と出会うことを期待しながら登った。
 約30分ほど登っただろうか、”Munt la Schera"へ行く分岐点までやってきた。しかし、野生動物にあうことはなかった。さらに、ここから山のてっぺんに登ろうにも、体力と時間がもう残っていなかった。しかたなく、今来た道を引き返すことにした。ふと、ハイキング道のそばに目をやると、白い花が咲いている。「エーデルワイスと違う?」とうちの奥様が言った。そばに近寄ってみると確かにエーデルワイスだ。それも、あちこちに咲いている。野生動物には会えなかったが、野生のエーデルワイスの群落をみることができてとてもよかった。ただ、写真をとったものの、カメラに接写モードがついていなかったので、うまく写っていなかったのは残念だった。
 再び、”Alp La Schera”に帰ってきた。すでに人の姿はない。時間も午後4時30分を過ぎていた。と、何やら動くものがいる。さっき見たマーモットだ。それも、目の前に2匹、向こうの方にも数匹確認できる。穴から顔をのぞかせたり、じゃれあったりしている。さっきまでは、2匹しか確認できなかったのに・・・。やはり、人が多かったせいなのだろう。たしかに、マーモットは臆病な動物のようだ。 もう少しマーモットを観察したかったが、時間も遅く、人もいないとなると、なんとなく不安な気持ちになってくるものだ。足早に目的の”Punt la Drossa"へ急ぐ。約1時間30分後、何事もなくバス停に着いた。目の前は検問所。イタリアへ行く車をチェックしているようだ。そう、ここは少し行けばイタリア、本当にスイスの秘境、奥座敷だ。この自然、いつまでも残しておいてほしい気がした。
 このあと、ホテルに預かってもらっていた荷物をとりにいき、ウンターエンガディンに別れを告げ、サンモリッツへと向かった。
スタート地点の"Il Fuorn" アリ塚
スタート地点の"Il Fuorn" 松の木の根元にアリ塚
雪崩のあと? "Alp La Schera"の休憩場所
雪崩のあとだろうか "Alp La Schera"の休憩場所
エーデルワイスを発見した場所 エーデルワイス
こんなところに・・・ エーデルワイスがあった
ミュスタイア行きバス停 ツェルネッツ駅
駅前から国立公園経由ミュスタイア
行きのバスが発着している
古ぼけたツェルネッツの駅
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